<蜂蜜酒をふたりで・5>
「この…ムッツリスケベ」
寝台に押し倒す格好になってもなお、ラクシはティーエの腕の中で悪態をついてみせた。
ただ、それが本心からのものでは無い事に気付いているので、ティーエは曖昧な笑みでそれに応える。
「夢を―― 視ていたんです」
「ゆめ?」
ティーエの美しい顔に浮かぶ曖昧な笑みが、どこと無く苦いものに見えるのは、ラクシの気のせいだろうか。
ラクシは訝しげに、可愛らしい眉を顰める。
その彼女の眉間に、白い指先で触れ、ティーエはラクシの存在を確かめるように、そのふっくらとした頬を手の甲で撫でた。
「ラクシ、あなたが―― わたしの腕からすり抜けて、消えてしまう夢」
「おれ…が」
「でもあなたはこうして、わたしの目の前にいる―― 何故そんな夢を視たのか、わたしにも判らないのです」
ラクシを見下ろしているティーエの双眸に、真剣な光が宿っている事に気付き、ラクシはじっとその左右の色の違う瞳を見上げた。
無言で見つめ合う。その視線が、絡まり合う。
一瞬、時間が止まったようにふたりには思えた。
その沈黙を先に破ったのは、ラクシだった。
ラクシがティーエの首に両腕を絡め、口づけを請うように唇を少しだけ窄めると、ティーエは自らの形の良い、薄桃色の唇を、その上にそっと重ねた。
初めのうちは触れ合うだけの口づけ。
ラクシが触れ合ったままの唇を少し開くと、ティーエもまた同様に唇を開き、互いの舌を探り合う。
無心に、互いを求め合った。何も考えられない、何も考えない―― ただ、そこにあるのは互いの存在だけ。
ティーエの白い指先が、ラクシの素肌を探り当てる。なめらかな肌。肌理の細かい、指に良く馴染んだそれ。
熱を帯び始めたラクシの身体は、ティーエにとって心地良く感じるものだった。
炎のように燃えて燃えて、その存在を自分の身体に刻み付けて欲しい。ティーエはこの時、強くそう願った。
夢の中で、はらはらと消え失せた儚い幻。
それが今目の前にいるラクシと同一のものだとは、認めたく無い、認めるつもりなど無い―― ティーエはそれを確かめるように、無心にラクシの身体を求めた。
唇で、指先で、掌で、ラクシという存在全てを探り、確認し、じっくりと味わう。
この世の中で、極上の果物が存在し得るのならば、それはおそらく彼女自身なのだろう。そしてそれを味わっても良いのは、自分だけ。
胸の中で渦巻く欲情と独占欲、そして愛しくて堪らない恋慕の情が綯い交ぜになって、ティーエの身を焦がしてゆく。
緩やかに開かれてゆくラクシの身体。
それはどんな甘露よりも甘く滴り、ティーエの渇きを潤してくれる。
柔らかな胸の双丘に唇を寄せ、少し強めに吸い上げると、ラクシがわずかに身動ぎするのが判る。
紅い華のような跡をところどころに刻むと、ラクシの喉から細い笛のような音が洩れる。
細い眉が顰められ、長い睫毛が小刻みに震えている。ふっくらとした朱い唇を噛み締めて、声を上げるまいとしているラクシの表情は
―― ティーエにとって、この上も無く扇情的な光景に見えた。
もっともっとそんな表情を見てみたい。
けれどそんなティーエの思いとは裏腹に、自らの身体はラクシを性急に欲しているのだ。
たっぷりと蜜を含んだ、ティーエしか知らないその場所に辿りついて、それを思う存分味わいたい―― 焔のような情欲が、
ティーエの身も心も嘗め尽くすように覆ってゆく。
ティーエはその焔に、己が身を委ねた。
抵抗は、しない。
ただ何処までも、情欲の求めるままに堕ちて行くだけ。
しなやかな両脚を開かせ、ゆっくりと身体を重ねると、ラクシの唇から声にならない溜息が洩れた。
その唇の端に、啄ばむような口付けを落としながら、ティーエの身体はラクシの全てを求めた。
獣が、餌食を喰らうように。
枯れかけた植物が、水を欲するように。
―― 子が、親の愛を求めるように。
我知らず静かに涙を流しながら、ティーエはラクシの体を貪った。
幾度も幾度も高みに昇り詰めて果て、泣きつかれて浅い睡りについた時には、空は白々と明けてきていた。
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(2008年02月03日)
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