<マスカレード〜水鏡〜>




そこに、信じられないものを見た。

水鏡にうつした顔をご覧 気をつけて
見ず知らずの誰かが 怯えて笑うよ

「……っ!」
揺れる水面にうつるのは、両眸の異なる己の顔ではなく、黄金の両眸の顔であった。
それは。
その顔は。
己の顔に瓜二つではあるが、己の顔では無い…双児のようなその顔は。
永遠に失われたはずの、魂の双児の顔だった。

忘れるはずも無い。
忘れられるはずも無い。
あんな…あんな失い方をした、己の半身とも言える存在を、どうして忘れる事が出来ようか。
ティーエは水面に向かって手を伸ばした。
無駄と知りつつも、手を伸ばさずにはいられなかった。

水面に指が触れる。
そのまま手を差し伸べて、その水の中に映る彼を救い上げられたなら。
叶わぬ夢と知りながら、そのまま腕ごと、ティーエの身体は水の中に沈んだ。

水の中で揺れる、己の髪。
その色は金茶で、黄金では無い。
水面にうつった彼は、黄金の波打つ髪を持っていたのに。自分はそうではない。
“どこにいらっしゃるのですか、イルアデルさま”
水中で、波に呑まれながらも…ティーエは必死に、かの人を探した。
既にこの世の人では無い、魂の双児を。


水は魔性。時に、この世ならざるモノを人に魅せる。
その幻惑に囚われるものを、引きずり込むのだ。
それは、淋しがりやの水妖が、孤独の余りに流す涙のなせるわざなのかも知れない。


ずぶ濡れになって岸辺に上がったティーエは、空の両腕を抱えたまま、ただ静かに涙を流していた。



------------------------------


だからどうした、と言った感じの短文です。
元ネタは2004年宝塚歌劇団「ロマンチカ宝塚'04〜ドルチェ・ヴィータ」(荻田光一・作) の主題歌「マスカレード」になります。
冒頭の二文は、その歌詞から。
波間に揺れるイルアデルの幻。解っていても手を伸ばしてしまうティーエ。
そういう雰囲気が出せたら良いなぁと思うのですが。
微妙に不発です(苦笑)。

(2006年04月27日)







<インデックスページに戻る>