<魂の双生児とは何か> 〜 ティーエとイルアデル 〜




さて今回のお題は、風の大陸・アドリエ編にて、あえなく夭逝してしまったイルアデルと、ティーエの関係について語ってみたいと思います。
あれだけインパクトのある登場の仕方をしておきながら、毒矢であっさり死亡…という最期に、涙された方も多いのではないでしょうか。
少し話題が逸れましたが、結局「魂の双生児」とは何だったのか、が今回のお題となります。
お付き合い頂けますか。


「風の大陸」の主人公ティーエの『魂の双生児』という、非常に曖昧な定義で登場したイルアデル。
ティーエの育ての親ケイローン曰く、「同じ魂をもって生まれてくる者、年齢も違う事もあるが、外見はそっくり」という、詳しいのか大雑把なのか判らない説明でありました。
アドリエ編でのティーエは殆ど宇宙人感覚でしたから、「この世には自分とそっくりの顔の人間がいて、その人間が自分と同じ魂を持っている」くらいの認識しか無かった事は推測出来ます。
ティーエよりも、明らかにイルアデルの方が「普通の人間の感覚」を持っていましたし、育った環境も複雑でしたから、良く言えば無垢、悪く言えば天然で空気を読まない宇宙人感覚のティーエの発言は、いちいちイルアデルの癇に障った事は、想像に難くありません。

たとえば。自分と同じ顔をした人間が「私とあなたは魂の双子なのです」と言って近付いてきたらどうしますか?
生まれたときから存在を知っている双子ならともかく(親の事情で別々に育てられた一卵性双生児もいますが)、世の中にそもそも同じ顔の人間が居たら、それは単に気味が悪いだけでしょう。
しかも、その気味の悪い存在は、得体の知れない事を口走っている。まさに『電波受信状態』な、常軌を逸した人間に見えても仕方ありませんね。
それで理解してもらえると思っていたティーエの方が、明らかに問題があります。
イルアデルは「普通の」人間ですから。


「どうして解ってくれないのか」ともどかしい思いをするティーエですが、口で言葉にして伝えなければ、コミュニケーションというものは成立しません。
まして、イルアデルと出逢った頃のティーエは、コミュニケーションといえば「触れ合えば解り合える」と思っており、さらに相手が『魂の双生児』であると判っているものですから、言葉で表現しようとする努力をしなかったのですね。衝突するのは当然でしょう。
まあそれでもイルアデルが、自ら生まれ持った潜在能力を目覚めさせたことにより、コミュニケーションが取れるようになり、万事解決…のはずだったのですが、そういう矢先にイルアデルは死亡。
『魂の双生児』とは一体どういう存在だったのか…は結局明らかにされずに、話は太陽帝国編へ。
イルアデルという存在は、本当にどういう人間として描きたかったのか。今ひとつ消化不良感を感じてしまうのは私だけでしょうか。

同じ魂を持つ、と一言で表現するのは無理があると、私は思うのです。
魂というものは非常に曖昧な表現で、命という言葉に置き換えたのであれば、ひとりの人間にひとつという事になる訳で、他人と共有出来るものではありません。
原作中で、ティーエとイルアデルの魂は融合しかけている、という表現が出て来ていますが(また、イルアデルの遺言の中にも出て来ていますが)、そのイルアデルの魂はイルアデルが死亡した際に、肉体から飛び去ってしまっているのですね。ティーエの中に吸い込まれた訳でもなく、飛び去ってしまったのです。だからこそ、イルアデルが死んだ事を信じられないティーエの幽魂が、イルアデルの魂を求めて彷徨ったりする訳で。
それは、『同じ魂』ではなく、『限りなく良く似た、共鳴し合う魂』なのではないかと。

イルアデルの魂のオーラの色は黄金色で、ティーエは白金色。同じ魂であるのなら、本来魂のオーラの色も同じでなければならないはず…なのですが。
そして、ティーエが『自分と魂が良く似ている』と感じたレイトリンの魂のオーラも、黄金色で、実はイルアデルと同じ色なのですね。
さらに、ティーエが『もうひとりの自分』認定したドラスウェルクやカリスウェンの魂のオーラの色については、あまり深くは触れられていません。


これらの事を考えると、『魂の双生児』というのは、当初非常に重要な存在・設定であったのが、物語の方向性が変わった事により、あまり重要性を持たなくなってしまった…と考えた方が良いのかもしれません。
最終的には、ティーエにとって、本来最も近しい存在であるはずのイルアデルが、後から出て来たカリスウェンやドラスウェルクと同じ扱いになってしまっていますから。


原作者の竹河氏曰く、『イルアデルには(ティーエと)手を取り合う道か、全く違う道を歩むかを考えていたが、結局死なせてしまった』という事です。
魂の双子という設定は、本来必要の無い設定だったのかもしれませんね。イルアデルの喪失という事で、結局はティーエもあまり深手を負った訳では無いようですし(一時的には深手を負って、殻に閉じこもりましたが、立ち直ってしまい、その後はあまり気に留めていないようですし)…。
イルアデルが気の毒に思えて仕方ありません。


よく分からない語りにお付き合い頂き、有難うございました。

(2006年5月17日)




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